小泉宗雄・「三光太源文化研究所」のご案内

第27話2016年12月


 平成28年12月吉日


スピリチュアル エピソード 第27話


 これからお話しするエピソードを、私は書こうか書くまいか何回も躊躇しました。と云うのは、第26話でお話ししたM社長の元で、私が長年勤務したS社・当時はまだS研究所と云う社名でありましたが、同社で若い日に関わった脱税に関するものだからです。
 脱税は企業が犯す犯罪であり、決して許されるものではありません。煩悶の結果、今回踏み切ったのは、その事件からもう五十余年の月日が経過していること、何よりもS社が平成23年その幕を閉じたことによります。そして、当時の関係者はM社長を始め大半の方々がこの世を去り、お元気なのは僅かに先輩のKさんお一人となっております。
 そして今なら、きっとM社長の御霊は、当時お話しすることが出来なかったこの事件を巡る私の行為を、理解して喜んで頂けるのではないか、そんな思いがあってのことであります。

 それは、「もはや戦後ではない」という言葉で始まった昭和30年代半ばの事でした。高度成長により経済は著しく発展して巷は活況を呈しておりましたが、でもまだよろず混とんとした時代でありました。
 当時、S研究所にはKOさんという創業者の所長がおりましたが、別途に出版の事業を計画して社にほとんど出社せず、Mさんが全てを仕切っておりました。
 仕事は、大蔵省、郵政省、都庁、全農、東電、朝日新聞さんなどからの、もっぱら計算集計業務の受託で、30人ほどの女性社員が、算盤と、数台あるタイガーと云う手回しの計算機でそれらの業務を処理しておりました。
 仕事は多忙を極め、経営は順調でしたが、全てを任されたMさんの頭痛の種は、所長のKさんから指示された、出版事業のための裏金作りでした。そのためには、架空経費の計上か、売掛金の未計上が必要になります。
 当時、売掛金は小切手で支払われ、それを集金して銀行の当座預金に入金する、其れは庶務担当の私の仕事でした。そして、民間企業からは、もっぱら銀行渡りの横線小切手で支払われるため、一旦金融機関に預ける必要があり必ず記録が残りますが、官公庁の発行する政府小切手は、日本銀行に持って行くとすぐ現金化できたのです。
 そこに目をつけたMさんは,某官公庁の売掛金を日銀で現金化して帳簿から外させたのです。ところが、そのことが税務調査で疑惑の対象となり、特別調査班による特別調査の可能性が浮上しました。
 「えらいことになった」Mさんはもちろんの事、先輩のKさんも私も真っ青になりました。「どうしようか−」
 それは確か2月の事でした。私は神様にすがるしかないと決意し、父に相談して3日間の行を始めました。深夜の12時に水をかぶって禊をして、妙高山玉造霊神にこの件が大事にならないで済むよう、一心に祈ったのです。
 3日目の満願の夜でした。寝しなに夢を見ました。寺の庫裏の様な板の間で、醜悪な老婆が引っくり返って、手足をバタバタさせながら何か喚いているのです。見るとその手足は真っ黒に汚れていました。私は思わず手拭いでその手足を拭いてやりました。すると、その老婆はニコニコとしたのです。そこでパッと目が覚めました。
 「宗雄、大丈夫だよ。税務調査は何とか収まるよ」父がそう云いました。会社が犯した不正は許されるものではありませんが、その老婆に扮した因縁霊が事件になるようけしかけ、その呪いが私の祈りで何とか収まったとのことでした。恐らくは、その土地に関わる因縁霊だったのでしょう。そして、本当に何とか無難に終了したのです。
 その真相は所長のKOさんのとった苦肉の策でした。伝手を頼って恵比寿にあった会社を某区に移転させ、その地域を担当する税務署出身の税理士に頼んで、その税務署に調査に手加減が加えられる様に頼んだのです。今ではとても考えられない、そして許されないことではありますが、まだ混とんとした時代だから可能だったことでした。調査が終わってほっとした時の気持ちが、今でも思い出されます。
 でも、この私の行為はMさんにはもちろんの事、誰にも話しませんでした。もし、Mさんに話したら、私のこの様な行為はとても理解されず、その結果、恐らく私はこの会社にいられなくなるのではないか、Mさんの心情を忖度してそう思ったからです。

 そして、それから40年ほど経って、私のその行為へのお返しがありました。昭和63年に株式会社綜研情報工芸を設立して、5年ほど経って初めての税務調査がありました。会計処理は、若いころ税理士を志して勉強した友人のO君が担当しているので、間違いはないものの、税務調査はうっとおしいものです。何やかやと否認して税金の追徴課税をしがちです。
 ところが調査があった日の夜、あの時の老婆のニコッとした顔が夢に出てきたのです。
 そして税務調査は全認・すべて問題ないとの結論で終了しました。